中村文昭さん【21】 逃げ出したあの夜
逃げ出したあの夜
そんな尊敬する師匠の元でしたが、やはりあまりに厳しく、何度も逃げ出したこともあります。
師匠は勘の鋭い人で、逃げても捕まる、逃げても捕まる、そんなことを何度も繰り返しました。
しかし、一度だけ、脱走に成功したことがあったのです。
そのまま実家に逃げ帰りました。
その夜、師匠から母親に電話がありました。
とても長い電話でした。22時~27時まで続きました。
師匠「中村文昭くんは私のもとで1年間、よく頑張ってくれています。見違えるような姿になっていて驚かれるでしょう。彼は今、いくつもの無理難題に乗り越えて、一歩一歩着実に成長しています。あと少し、もう少しで合格かも知れない。本当の自信を手に入れるかも知れない。
でも、もし、お母様に抱きしめられたらきっとこう思うでしょう。“人生には逃げ道がある”って。一度逃げてしまうと癖になり、いざという時にこらえきれない人生になる。
親として彼を抱きしめたくなるでしょう。しかし、ここで抱きしめるのが愛情でしょうか。お母さん、真の愛情とはなんでしょう?」
私は寝てしまい、目が覚めると母親が居ません。
そして、机の上には一通の手紙が置いてありました。
母親「文昭へ。久しぶりに見るあんたは以前の頼りない印象とは違い、とても男らしくて見違えるほどでした。どれだけ苦労しているかは、親だから話をせんでも分かるわ。たまには家に帰ってきたときくらいゆっくりさせてあげたい気持ちはあります。
…けど、
今日は荷物をまとめて帰りなさい。あんたが東京で一生懸命頑張っているからこそ、道半ばで帰ってきたのが母ちゃんは残念です。
今、あんたを受け入れるのは簡単、でもね。
突っ張って家を飛び出した以上、区切りがつくまでやりきってきなさい。
そしてもう一回りも二回りも成長してきなさい。そしたらその時はたくさん手料理を食べさせてあげるな。
文昭、お願いだから今回は私が起きる前に家から出て行ってください。
母ちゃんはあんたに会うと泣いてしまうから…。 母より」
私は再び、師匠の元に戻ることを決意したのです。
失敗しても、逃げ出しても、そこで人生は終わりじゃない。
そこからドラマチックに這い上がるからこそ人生!
「あの失敗のおかげで強くなった」
「あの時、逃げ出したけど、そのお陰で今の俺がある」
人生はドラマです。どんな状況でも楽しまなければ損ですよ!
この記事を書いた人
パッケージマーケッター 松浦陽司
1974年、徳島県徳島市生まれ。著書「売れるパッケージ5つの法則と70の事例」と「売上がグングン伸びるパッケージ戦略」を出版。パッケージマーケティングの創始者。パッケージの企画やデザインだけではなく、商品開発の根幹であるブランディングも行い、多数の成果をあげている。中身商品は同じでも、パッケージを変えただけで売上10倍になったり、単価が5倍になったりする事例を生み出している。その他、執筆活動、講演活動なども行う。ブランド・マネージャー認定協会2級&1級&ミドルトレーナー。